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仙台高等裁判所 昭和61年(ネ)350号 判決

控訴人 伊藤チエ子

右訴訟代理人弁護士 千田實

右訴訟復代理人弁護士 小松亀一

被控訴人 住友生命保険相互会社

右代表者代表取締役 上山保彦

右訴訟代理人弁護士 川木一正

同 松村和宜

同 長野元貞

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金一六〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほかは、原判決の事実摘示及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の補充陳述)

災害死亡保険金の免責が認められる「被保険者の飲酒運転中の事故」とは、飲酒運転が事故発生の少なくとも重要な一因となる場合をいい、飲酒運転が事故の原因の主要部分をなしていなければならないと解すべきである。

本件において、神橋運転の車はセンターラインをこえて伊藤力運転の車の車線上に大きくはみ出してきたものであるから、伊藤車がスピードを出していたかどうか等とは関係なく本件事故は発生したものであり、本件事故の直接の重要な原因は神橋車の対向車線にはみ出した走行にあるのであって、伊藤力の過失は本件事故の発生については重要な部分とはいえないものである。

免責条項は例外的に適用されるものである。例外はせまく厳格に解釈適用されなければならない。

理由

当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1. 原判決一〇枚目裏一〇行目の「目に余るものがあり」とあるのを「窺知し得るところであり」と、同一一枚目表四行目の「免責条項が」とあるのを「免責条項は」と、同六行目から七行目の「場合にまで当然に適用さるべき条項かどうかについてはやや疑問があるけれども」とあるのを「場合には適用がないと解すべきであるけれども」と改める。

2. 被控訴人主張の免責条項(被保険者の無免許運転中または飲酒運転中の事故により被保険者が死亡したときは、災害死亡保険金を支払わない旨の条項)は、無免許運転も飲酒運転(酒酔い運転、酒気帯び運転)もいずれも事故を起こす蓋然性の高い運転行為であって、その運転自体が法令により禁止されているものであり、その反社会性も強いものであるところから、その運転中に被保険者に生じた死亡・傷害については、反証がない限り、その運転によって事故を起こしたものとしてその間に因果関係があるものと推定するのが相当であり、その事故による損害を填補しないという趣旨で定められたものと解されるものである。

このことは右条項の文理上からも(成立に争いがない乙第二号証によれば、本件保険契約においては、被保険者が次のいずれかにより死亡したときは災害死亡保険金を支払わないとし、その場合として、被保険者の故意または重大な過失、被保険者の犯罪行為、被保険者の泥酔の状態を原因とする事故とともに、被保険者の無免許運転中または飲酒運転中の事故という項目が掲げられていることが認められる。)そのように解するのが相当であると認められる。

ところで、本件の全証拠によっても、伊藤力の飲酒運転と本件事故の発生との間に因果関係がないことは認められない。

よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 輪湖公寛 裁判官 武田平次郎 木原幹郎)

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